満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書) / 加藤 陽子
岩波書店
私にとって、戦前の日本は遠い国のひとつだ。 祖父の代の国、同じ言葉、同じ風土の国なのだけれど、どんな生活だったのか、どう暮らしていたのか、 何に困っていたのか、今とはなにがどうちがうのか、疑問はあげればきりがない。 そのうえこの時代の「結果」は決まっている。だからこうした問いは、その「結果」に向けて演繹を試みるための問いかけといってもよい。
加藤氏の手元にある他の著書を見ても、氏はそういった問いかけを、そうなってしまった(そうさせてしまった)深部の力、経緯を探ることに集中する。 本書では、満蒙特殊権益、1920年代中国の体制、リットン報告書、1933年以降の中国の戦略、日本の意図、日中戦争の特質を明らかにし、その要因を述べている。
ふつう歴史書というと、時系列やある地域を固定し事実を記述するようなものが多いのかもしれないが、 その点では、本書は1920年代〜30年代の中国、日本、満州を行ったり来たりするのが特徴的だ。 そのため、若干分かりづらい構成なのかもしれないが、逆に複雑な因果関係が浮き上がってくるようにも感じられる。
また当然ながら著者は事実だけを辿るのでなく、当時の中心人物が何を考えていたのかにも明らかにしようとする。 むしろ、筆の運びをみると、中心人物であった石原完爾と松岡洋右の二人にさかれた章に特にもっとも力がはいっており、 「おわりに」でも、この二人が切り口となっている。 おそらく、著者はこの二人を時代の(最)重要人物とみているのかもしれない。
そして、「おわりに」を読めば、どうして本書が少々わかりにくい構成をとったのか、理由がわかる仕掛けだ。 (おそらく、ふつうの本なら2章の内容から始まる。) もちろん、戦前日本の話がこの1冊だけでカバーされるなんてことはないし、すべてがクリアになるわけでもないが、 この「仕掛け」により、より深く問いかけられるようになるのだけは確かだろう。

